はじめに

こんにちは、雨夏ユカリです。
その昔、「どうやったら絵がうまくなるか?」だの「クリエイターとして生計を立てていくためにはどうしたらいいのか?」だの、そういったことを知りたかったらかなりの覚悟が必要でした。
本の数も少なかったですし、専門的なことを知りたかったら予備校に行くなり師事するなりといったことが必要だったわけです。
が、今はめちゃくちゃ良い時代になっています。Youtubeを見ればプロのクリエイターが情報を発信してくれていますし、ノウハウ本もかなりの数が出ているわけです。情報がなくて困るということは少なく、マニアックな内容も先駆者が解説してくれることが多いわけです。本当にありがたい。
が、その反面、「情報がありすぎて困る」事態になってきてるな、と思うことも増えました。
プロの言葉をそのままやってもプロになれない件
成功しているクリエイターの言っている通りの練習をしたのに、うまくいかないことってありませんか?
私はあります。例えば、「常にグロッキー帳を持ち歩いて、目に入ったものを絵に描き続けると上達するよ」というアドバイスを受けたことがあるんですが、まあ数日で続けるのがしんどくなって無事辞めました。
何が言いたいかというと、成功してるクリエイターが「私のやり方で絶対うまくいく!」と言っていても、それを信じてそのままやっても、だいたいはうまくいかないということです。マジです。嘘じゃないです。
冷静に考えれば、もし「成功している人の言葉」を信じるだけでうまくいくのなら、自己啓発の本など1冊で十分なはずです。その1冊を読めば成功するはずです。でも現実には雨後の筍のように数多の本。大体の人がうまくいっていないからこそ、こんなにもたくさんの本があるわけです。
誤解しないでほしいんですが、私は別に、プロが嘘をついてるとか間違ってるとか言ってるんじゃないです。そこら辺にいるよくわからない人間のいうことを信じるより、プロの言っていることを信じたほうが良いのも間違いないです。
ただ、「私のやり方で絶対うまくいく!」っていう言葉を、そのまま信じ込んじゃうのは問題があるのでは、という話です。学年一位の子に勉強法を聞いても学年一位になれないのは、割と経験があるのではないでしょうか?
練習の影響は12%?
実は心理学で似たような現象があります。
ブリンストン大学らが行った研究によると、特定の分野をマスターするために必要な要素のうち、練習の重要さは平均で12%ぐらいとこのと。この研究はメタ分析と呼ばれる手法を使っており、かなり信頼性が高いんですよね。
これは練習に意味がない、と言っているわけではなく、「練習以外のたくさんの要素が結果に関わってくるよ」ということです。ちなみに、練習以外と言っても生まれつきの「才能」だけではなく、個人の経験や生活習慣なんかも含まれる可能性があるそうです。
これには結構うなずく人も多いのではないでしょうか?
が、「人類平等!」という思想から、「能力も平等! 努力が大事!」といった思想に発展した結果、悲惨なことが起きていて、「同じだけの努力をすれば、同じだけの結果が得られるよね? つまり、君がうまくいってないのは努力不足ってわけ」みたいな言説がはびこっているわけです。

うっ! 数学完全ワカールチャンネルを見ても、数学出来ない……

え、いや、このチャンネルめっちゃわかりやすいじゃん……

うわーん! おんなじチャンネル見てるはずなのに……!
プロの言葉を信じるのは、何が問題なのか?

では、本来なら参考になるはずのプロの意見によって、どうして私たちは苦しめられるのか?
そこには、大きく3つの原因があると考えられます。
1.生存者バイアス
2.単一原因の誤謬
3.前提の違い

なんかやたら難しそうな言葉が並んでるっ!

これだけじゃわかんないから、ちゃんと解説読もうよ

がんばるっ!
生存者バイアス:見えない失敗者たち

プロの言葉を信じすぎてはいけない理由の一つが、生存者バイアスです。
「諦めなければ夢は叶う!」
こんな言葉、どこかで聞いたことありませんか?
確かに、活躍しているクリエイターの多くが「諦めなかった」と言ってるんですよね。これだけ聞くと、あきらめなければ成功する、かのように思いがちです。
が、ここには生存者バイアスの問題が付きまといます。
生存者バイアスというのは、「生き残った人の声だけが、データとして反映される」ことで生じる思い込みのことです。
例えば、戦争で生き残った兵士がいたとします。その兵士に「どうやって生き残ったの?」って聞いたら、こう答えたとしましょう。
「常に仲間を盾にしたんです。そのおかげで弾よけができて、生き残れました」
さて、この兵士の言葉を信じて「仲間を盾にすれば生き残れる」と結論づけていいでしょうか?
駄目ですよね。なぜなら、仲間を盾にして死んでしまった兵士たちのデータがごっそり抜け落ちているからです。もしかしたら、仲間を盾にした兵士の99%が死んでいて、この1人だけが運良く生き残ったのかもしれません。
クリエイターの世界でも同じことが起きてるんです。
「諦めなかったから成功した!」も、まったく同じです。
同じようにあきらめずに頑張っても、くすぶっている人たちなんていくらでもいます。新規事業の約半数が5年以内に失敗します。つまり、諦めずに頑張り続けても、成功する確率は決して高くないんです。
でも、失敗した人たちは有名ではないから、発信しても情報が周囲に伝わりません。
その結果、「諦めずに成功した」という声だけを、私たちは有名になった人から聞き続けることになるわけです。

毎日動画をアップロードすればYoutubeってうまくいくんじゃないの??

え? この動画、毎日同じ内容なんだけど……

だって……毎日やればうまくいくって……

普通にBAN食らって終わりだよ……
単一原因の誤謬とは何か?

「毎日5時に起きて瞑想したら、アイデアが湯水のように湧いてきた!」
こんな風に、成功の秘訣を語る人って多いですよね。でも、こういった秘訣は、常に「単一原因の誤謬」が問題になります。
単一原因の誤謬とは、実際はもっと複雑なのにも関わらず、目立つ1つの原因だけが大切だと思い込んでしまうことです。
例えば、ベストセラー作家のAさんが「毎日3000字書いたから成功した」って言ったとしましょう。「だからどんなに調子が悪い時も3000字かくことが大事なんだ」みたいな話を信じたくなることもあります。が、ここには問題があります。
問題の本質は、成功の理由が本来めちゃくちゃ複雑で、いろいろ要素が絡み合って形成されることにあります。
例えば、有名な陸上選手がいたとします。その人が「特殊な練習方法」をしていたら、ついつい真似をして同じ練習をすればうまくいくと思いたくなります。
が、陸上競技は遺伝的な要素が7割くらいを占めていると言われています。なので、特殊な練習の貢献度は、目立つほど大きくないのです。
実際には、遺伝子、食事、睡眠、運、メンタル面のケアとか、いろんな要素が絡み合って成功につながってるはずです。
しかし、人間は、単純な理由を求めたがる生き物です。だから「あの特殊な練習法が成功の秘訣だ!」みたいに、一つの要素だけを重視してしまう。よく言われる「才能」もまた、その「単純な理由」として取り上げられがちなものです。
疑似相関関係にも要注意!
ここでもう一つ、やっかいな現象を紹介します。「疑似相関関係」っていうやつです。これも、めちゃくちゃ厄介な現象です。
疑似相関関係とは、実際には直接の因果関係がないにもかかわらず、2つの事象に関連性が存在するかのように見えてしまうことです。
例えば、「朝食にバナナを食べるクリエイターほど、作品の評価が高い」なんてデータがあったとします。これ、バナナのおかげで才能が開花したってことになるんでしょうか?
違うはずですよね。もしかしたら、「健康的な生活習慣を心がけるクリエイターほど、作品作りにも真剣に取り組んでいる」とか、そんな隠れた要因があるのかもしれません。
この場合、本当の要因は「健康的な生活習慣をする精神性」ですが、一見すると「バナナを食べる」ことが要因に見えてしまうわけです。(なお、こんな研究は存在しません。フィクションです)
このように、本当の原因は別のところにあるのに、全然関係ない事象同士がさも関連性が存在するかのように見えてしまうことは、いたるところにあるわけです。
疑似相関の原因は、私たちが本能的に「パターンを見つけたい」という風に思ってしまうところにあります。そのため、本来は関係ないもの同士でも、そこにパターンや因果関係を作り出してしまうんです。
成功者でも、成功の秘訣を語るときにこの罠にかかりやすいです。そのため、実は全然関係ないことを、さも「成功の秘訣」のように語ってしまうことが起きてしまうんですね。

見てみて! スマホを逆さにしながらガチャを引くとSSR出るよ!

あ……こんな風に人間は偽りのパターンを作り出すんだなぁ……

やった、22回連続SSR!

!? 待ってお姉ちゃん、私のも引いて!
個人差と前提条件の罠

さて、最後のポイントです。クリエイターの成功の秘訣を探る上で、絶対に忘れちゃいけないのが「個人差」と「前提条件」です。
全人類能力が違うという現実
当たり前すぎて忘れがちなんですが、人間は一人一人違います。遺伝子も違えば、育った環境も違う。経験だってみんな違います。
それによって、問題が起こります。
例えば、「毎日深夜に作曲するのが最高! みんなもやるべき!」と、人気ミュージシャンのBさんが、語っていたとします。
そうすると、ついつい深夜に曲を作るのがよさそうと思いがちです。
が、ここには問題があるわけです。例えば、人間が何時ごろにパフォーマンスが上がるのかは、遺伝子によって影響されています。なので、たまたま、Bさんが深夜に調子が上がる遺伝子を持っていたのかもしれません。
だから、Bさんにぴったりの方法が、あなたにも合うとは限らないんです。
それに、成功者の言葉を聞くとき、見落としがちな重要なポイントがあります。それが「前提条件」です。
例えば、有名イラストレーターのCさんが「毎日10時間描けば上手くなる!」って言ったとします。でも、Cさんは、美大で専門的な教育を受けていたことで、「上達する練習法」を知っていたのかもしれません。
その練習法があったからこそ、10時間描いたらうまくなれたのかもしれません。
こういった前提条件を無視して、ただ「10時間描く」ことだけ真似しても、同じ結果は得られないかもしれません。
個人差がある、というのは当たり前のことです。同じ量を食べても太る人と太らない人がいるのは、全人類感覚として理解していると思います。
が、目に見えない「精神・スキル」の話になると、みんなこの「個人差」というものを忘れがちです。「あの人が頑張れているのだから、自分も頑張れるはず」と思うのは、シンプルに個人差を見逃しています。
なので、たとえ活躍しているクリエイターが「〇〇は大事」と言い、その言葉が正しかったとしても、例外的に「あなたには合わないやり方」である可能性も、十分に存在しているわけです。

私と同じ量食べても太らないなんてずるい!

私は野菜を1kg、お姉ちゃんはケーキを1kg、カロリーが違うよ……

うっ……!
言葉は信じられない。では、どうしたらいいのか?

ここまで読んで、「もう成功者の言葉なんて信じられない!」って思った人もいるかもしれません。
でも、そうしてしまうと、せっかくの有用なアドバイスを見逃してしまう可能性があります。プロの言葉を信じすぎるのも、信じなさすぎるのも両極端になってしまいます。そして、大体のことはその間ぐらいがちょうどいいと、アリストテレスも言っています。
というわけで、適度に成功しているクリエイターの言葉を疑いつつ、適度に信じる、というバランスでいれば、呑まれすぎずに最適なアドバイスを受けることができるのでは、と私は考えています。
と言っても、じゃあ具体的にどうしたらいいのか、という話になりますが、私は「実践的懐疑主義」という立場をとるのが楽なんじゃないかな、と思っています。つまり、「疑いながらも試してみて、良かったら採用する」という考え方ですね。
次の3つを意識してみるとよいのではないでしょうか。
1.ほんのりと疑う
2.実験精神を持つ
3.幅広い情報を仕入れる
1.ほんのりと疑う
成功したクリエイターの言葉は、「参考」になることが多いです。自分に足りない部分を意識させてくれたり、考え方に新しい視点をもたらしてくれたりします。
が、「あの人の言うことは絶対正しい」「あの人の言うとおりにする」まで行ってしまうと、罠に引っかかりやすくなります。
そのため、「うわぁさすがは〇〇さんだ、なんて参考になる考え方なんだ」と思いつつも、心のどこかで「この人の言っていることが絶対に正しいわけじゃない」ということを考えておきましょう。
2.実験精神を持つ
クリエイターの言葉を信じる前に、「試す」時間を設けることも大切だと思います。
つまり、自分で実際に試してみて、その効果を実験するわけです。そのうえで、もし求めている結果が得られなかった場合、自分なりの仮説をもとに、アレンジしてみるという精神を持つことです。
例えば、「毎日走り込みをするのがうまくいくコツ」という言葉があったとして、走り込みがうまくいかなかったとしましょう。
その時は、「運動が大事なのかもしれない。だったら、走り込みじゃなくて家でできるサイクリングマシンのほうが自分に合っているのかも?」と、アレンジすることで、その人が得ている効果を得られるようになる可能性があります。
基本的には、「自分の身体で試してみるまでは、半信半疑でいる」というのが、情報に対して、呑まれにくいやり方なんじゃないかな、と思います。
3.幅広い情報を仕入れる
一人の成功者の言葉だけじゃなくて、いろんな人の意見を聞くことも重要でしょう。そうすると、「あれ? この人はみんな言ってること違うぞ」とか「この部分は共通してるな」とか、新しい発見があるかもしれません。
例えば、読書家である佐藤優さんは、初心者なら「3冊ルール」を意識することが大切である、と、『読書の技法』で述べています。
これはどういうことかというと、初心者は本を1冊でもなく2冊でもなく、3冊買って同時に読むのが良い、ということです。
なぜ3冊なのかはシンプルで、3冊あった場合、「意見が割れたときに、多数のほうを信じる」という行動がとれるからです。1冊だとその本が間違っていた場合に何もかも間違うのでやめたほうが良い、とも言っています。
例えば、料理の本で2冊が「塩は一つまみが良い」と書かれていて、もう1冊の本では「塩はたくさん入れろ」と書かれていた場合、確率的に「塩は一つまみ」のほうを信用したほうが良い、という判断ができるようになる、ということです。
さらに、複数の情報源から情報を仕入れることで、「共通する原則」が見えてくることもあります。
例えば、ある人が「絵の上達には模写だ!」と言い、ある人が「絵の上達にはオリジナル作品を書き続けることだ」と言い、ある人が「絵の上達にはデッサンだ」と言っていたとしましょう。この場合、どれが正しいのかはわかりません。
しかし、この3人が共通して「描いたら師匠からフィードバックをもらえ」と言っていたとするならば、上達に必要なのは練習方法ではなく、「フィードバックを師匠から貰うことである」と判断することができるわけです。
こういった「共通の原則」が手に入ると、それを自分なりにアレンジする方法を考えやすくなり、非常に応用の利く知識を手に入れることにもつながるわけです。

お菓子を食べたら太るって言説も、試してみるまで信じない!

この間、体重増えたって言ってなかった?

もしかしたら疑似相関のせいかも! お菓子関係ないかも!

駄目だこの姉……早く何とかしないと……
参考文献Top3
この文章を書くにあたって参考にした本たちです。参考度合が近い順に順位付けしているので、今回の話題について興味がある方は読んでみてください。
1位 FACT FULLNES
もともとは免疫研究をしていたハンス・ロスリング先生が、人生の最後を捧げて「なんで賢い人ほど世界のことを勘違いしちゃうの?」って問題に切り込んだ一冊。
本書では、世界についての基本的な事実を問うクイズ(世界の一歳児で、何パーセントが予防接種を受けているか? といったテスト)が出てくるんですが、ほとんどの人が、チンパンジーよりも正答率が低くなるとのこと。一時期このテストは話題になったので、知っている人も多いかも。
なぜそうなるかが本書の主題で、人間が陥りがちな「10個の思い込み」について解説してくれます。ロスリング先生は、この思い込みを乗り越えて、データに基づいて世界を正しく見る習慣「ファクトフルネス」を提案してくれているわけです。話の内容もわかりやすく、そりゃあ300万部も売れるよな、と納得させられる本でした。
2位 Think Smart
認知心理学や社会心理学などの過去30年間の学術研究をもとに、私たちの成功や幸せを台なしにする52の「思考の癖」が解説された本。
この本の良いところは、日常的なトピックに絡めて語られているところで、「新年の抱負が達成できないわけ」「比較しすぎると、いい決断ができなくなってしまうわけ」といった話題を用いて、「人間の思い込み」にアプローチしている点は読みやすいです。
前著『Think clearly』で日本でもベストセラーとなった著者の新作として、割と多くの人が読んでいる本。「間違った思い込みを避ける」ための思考法を、わかりやすく学びたい人におすすめの一冊です。
3位 賢い人がなぜ判断を誤るのか
認知科学の知見を駆使して人間の意思決定の不合理性に切り込んだ一冊。著者のオリヴィエ・シボニー博士は、いくら賢い人でも陥りがちな「認知バイアス」、つまりは「思い込み」の正体を明らかにし、それを克服するための方法を提案してくれています。
この本の面白いところは、単にバイアスの存在を指摘するだけでなく、それを「人の意志」ではなく「システム」で克服する具体的な戦略を示している点。オリヴィエ博士の「個人では認知バイアスに抗うのは難しいから、代わりに意思決定プロセスそのものに工夫を施すことでバイアスに対処しようぜ」という考えには、「なるほどな~」と思わされました。
Amazonのレビューも高評価が多いですし、自分の思考の癖を知り、より良い決断を下したい人におすすめの一冊なのでは? と思います。

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