はじめに
※2024年8月11日現在でのジャンプ本誌のネタバレを多分に含みます。注意。
今回のテーマは「呪術廻戦における“キャラクターの格”に関する考察」です。
「キャラクターの格」って何? という人のために解説すると、「格」とは、「読者がそのキャラをどれだけすごいと思うか」を示す表現です。
要するに、読者が「このキャラすごい」「強い! 勝てる気がしない」「なんて頼りになる存在なんだ」と思えるキャラクターが「格の高いキャラ」ということになるわけです。
少し前の話になりますが、2023年末の呪術廻戦はとんでもない「格の高さ」のオンパレードでした。両面宿儺の格がヤバすぎたというか、株価大高騰みたいな感じになってました。
宿儺といえば強い。強いと言ったら宿儺。そんな感じになっていたと思います。なおこれを書いているのは2024年の2月ごろですが、相変わらず宿儺強いです。
が、そんな強かった宿儺と、弱かった虎杖が現在、ほぼ対等に戦っているという奇妙な現象が発生しているわけです。呪術廻戦の最新話では、虎杖が宿儺に対して「情けをかける」というとんでもない事態になってるんですが、読者である私はこの状況を違和感なく受け入れることができています。
引用:芥見下々. 呪術廻戦,週刊少年ジャンプ2024年36/37合併号.集英社,188p
つまり、虎杖の「格」が読者の中で爆上がっているからこそ、あれだけ強かった宿儺と渡り合うことが読者目線で許されている、ということになるわけです。
さて、このキャラクターの「格」。
この「キャラクターの格」ってどういう風に作られるんでしょうか?

強いキャラは強い、それだけじゃないの????

でもさ、どうして私たちは「強い!」って感じるんだろうね?

確かに! 周りのキャラから持ち上げられてもイマイチなキャラとかいるしね!
キャラクターの格とは何なのか?
実際問題、作中の人物に「あのキャラは強い!」と言わせたところで、不出来ななろう系みたいになってしまうのがオチです。
これは本当に悲しい手法で、使うたびに読者と作者の感覚のずれが可視化されていき、最終的には読者にそっぽを向かれる悲しい事態になってしまいます。
では、どうして私たちは五条悟を、宿儺を、そして今の虎杖を「強い」と感じられるのか?
今回使うのは脳科学的な視点です。デイヴィッド・イーグルマン博士による『あなたの脳のはなし 神経科学者が解き明かす意識の謎』をベースにお話ししていこうと思います。
結論から言うと、「キャラクターの格が高い」とは、「読者が予測を上方修正すると決めた状態」のことです。
これだけだと意味が分からないと思うので、以下の3つのステップに分けて解説していきます。
1.私たちの脳は「予測」をしながら生きている
2.「予測」の修正こそが、脳の仕事である
3.キャラクターの行動も「予測」の対象である

予測? 予測と格にどんなつながりがあるんだろ?

驚かせる奴が強い、とか?
1.私たちの脳は「予測」をしながら生きている
私たちの脳は常時「予測」をしながら生きています。
突然何を言い出すんだと思うかもしれませんが、「予測」が私たちのデフォルトなんです。パッシブスキルです。常時発動です。
例えば、玄関の扉を開けたとしましょう。普通なら、いつも通りの景色が広がっているはずです。しかし、もしその時に、玄関の前に2000匹の犬がいたら、めちゃくちゃ驚くと思います。
この「驚く」という現象は、私たちの脳が何かを予測していたことを示しています。この場合、脳は無意識のうちに「玄関を開けても、2000匹の犬は絶対に存在しないだろう」と予測していたのです。
「驚き」は脳の予測が現実と一致しなかった時に生じる反応です。言い換えれば、私たちの脳は常に「世界はこうなっているだろう」という予測モデルを作り上げ、それに基づいて認識や行動を調整しているのです。
さっきの例だと、普段の玄関の様子から推測して、「まぁ犬2000匹はいないだろう」みたいな予測をしているわけです。
この「予測能力」は、人間が効率的に生活するための必須ツールです。常に周囲の状況を予測することで、私たちは日常生活を簡単に送ることができるわけです。
例えば、「スイッチを押せば電気がつくだろうと予測する」おかげで電気をオンオフできますし、「レストランに入ったとき、食事を提供してくれる人がいると予測する」おかげで、おなかがすいたときにレストランに行けるわけです。
これらの予測は、私たちが意識せずとも常に行われているということなんですね。

確かに「驚き」って、予想を裏切られたときに感じるよね

脳が常に予測しているっていうのは面白い発想だよね

ね、全然そんなこと意識してこなかったよ
2.予測の修正こそが脳の大きな仕事
そして脳の大きな仕事は「予測を修正すること」です。
もうちょい言うと「より完璧な予測ができる世界モデルを作ること」です。ここでいうモデルというのは模型みたいなものです。
要は未来予知は無理にしても、周囲の予測がより巧くできるようになった方が、生き残る確率が上がります。人間が進化してきた環境では、自分の脅威となる存在がいるのか、食料が手に入るか、こういった予測をうまくできないと、お星さまの仲間入りをする羽目になるわけです。
簡単な例を出しましょう。
もし、私たちが海外旅行に行ったとしましょう。それで、急に中指を立てられました
まあ戸惑いますよね。
これは、脳が「初対面なのに中指を立てられるはずがない」という予測をしていて、それが裏切られたから戸惑っている状況です。
が、もし道行く人の二人目、三人目からも中指を立てられたらどうでしょう? 多分、徐々に驚かなくなっていくんじゃないかと思います。
「ああ、こういう国なんだな」で終わるでしょう。あるいは「この国では中指を立てることが挨拶なのかも」とか考えるようになるはずです。
で、これこそが「より完璧な予測ができる世界モデルを作る」という行為です。
つまり、予測して、予測が間違っていたら事実をもとに修正していく。これをやることによって、私たちは日々変化する環境に適応し、お星さまの仲間入りをすることを防いできたわけです。

脳はずっと自分の予想が間違ってないかのテストをし続けてるってことか~

ホラーゲームとかだと、この「予想、驚き、修正」システムを実感しやすいかも

あ、確かに! ホラーって私たちの予想をいかに裏切るか、って感じだもんね!
3.キャラクターの行動にも私たちは無意識に予測を立てている
さて、「格」の話に戻りましょう。
私たちの脳は日々予測をしながら生きているといいました。
これは、創作物を読んでいるときも同じです。
つまり、私たちはキャラクターに対しても、何らかの予測をしながら物語を追っているわけです。そして、この予想が上方向に裏切られることが続くと、「キャラクターの格」を感じられるようになります。
例えば呪術で宿儺が五条を瞬殺したシーンありますよね。
あのシーンなんかが分かりやすいです。
引用:芥見下々. 呪術廻戦,週刊少年ジャンプ2023年41号.集英社,177p
このシーンで全人類「来週は宿儺が逆転するところから始まりそうだな」と思ったことでしょう。
引用:芥見下々. 呪術廻戦,週刊少年ジャンプ2023年43号.集英社,207p
そうしたら、まさかの五条悟の死後から物語が始まるわけです。
このシーンは呪術きっての名シーンといっても過言ではないですが、この時に私たちの脳は「次は宿儺が攻勢に出るシーンかと思っていたが、宿儺は五条を瞬殺していた」という形で予想が裏切られます。
そして、この時に「より完璧な世界モデルを作る」ために脳が下す判断は何か?
シンプルです。「次、宿儺の行動を予測するなら、より“上方修正”した方がよさそうだ」です。
これこそが「キャラクターの格」なのです。
つまり、「このキャラクターへの予測は常に上方向に裏切られているから、予測するときは常に上方修正しておこう」と脳が判断している状態こそが、「キャラクターの格が高い」という状況なわけです。

常に予想を上回るなら、「常に予想を上回る存在だ」と予想をしちゃえばいいじゃない、ってこと?

あまりにも力技だけど、一理はあるかもね。確かに。
虎杖と宿儺はいかにして「同格」になったか?
このことをもとに、虎杖と宿儺の戦いを振り返ってみると、わかってくることが多いです。
虎杖は、地道に「読者の予想を上方向に裏切る」ということをやり続けてきた結果として、「高い格」を手に入れたわけです。
唐突に虎杖が「穿血」を打ち込み始めるシーン→マジかよ虎杖は赤血操術使えるのか、予想を上方修正しないと!
術式拡張で伏黒恵との魂の境界に「解」を打ち込むシーン→そんなことできるのか、これは予想を上方修正しないと!
こんな感じで予想を上方向に裏切ることが続いた結果、私たちは「虎杖の格が高い」と無意識に感じるようになっていたわけです。
そして極めつけに虎杖はこんなことまでし始めます。
引用:芥見下々. 呪術廻戦,週刊少年ジャンプ2024年35号.集英社,177p
虎杖は今まで肉弾戦メインで戦ってきていて、読者としては領域を展開することはあまり予測していなかったわけです。でも「結界術の基礎を習得」と「黒閃」という説得力を持って予測を上方向に裏切ることで、虎杖の「格」を爆上げしているわけです。
それだけでなく、宿儺の予測も「下方修正」し続けることで、相対的に虎杖の格を上げています。
虎杖の黒閃を何発もクリーンヒットされる→宿儺めっちゃもろに黒閃食らい続けてるじゃん、予想を下方修正したほうが良いかも
両面宿儺の最終奥義がクリティカルヒット→最終奥義ってことはこれ以上はないのか、上方修正する必要はないな→え、待って(多分)お兄ちゃんしか死んでないじゃん→予想を下方修正しないと
こんな感じで読者の予測を地味に下方修正し続けることによって宿儺の「格」を下げ、それによって虎杖が「並んでも」おかしくないようにしています。
とにかく呪術廻戦はここら辺の格の操作が神がかり的にうまいので、本当に参考になる作品だなって思います。これは絶妙な綱渡りを毎週続けるようなもので、こんなことをやり続けている芥見先生が本当に怖いです。

確かに呪術廻戦って「このキャラ強い!」みたいなのがすごく伝わってくるよね

羂索とかの「暴力面以外の強さ」描写もすごくいよね

何もかも芥見先生の手のひらの上だぁ
結論
結局のところ、キャラクターの格とは「そのキャラの予測を上方修正した方がいいと脳が判断している状態」から生まれるものだと考えられます。
そして、高等テクニックも存在します。
「読者の視野を狭めておいて、予測を一気に上方修正する」という方法で「格」を上げることも可能です。
例えば最近面白かったのが「探偵死せど。」というマーダーミステリー作品です(盛大にネタバレを含みます、注意)。
その中に、「現場を見た瞬間に事件を解決する探偵」が出てくるわけです。
で、まあこいつが殺されます。死ぬんかい。
常識的に考えたら、死んでいるんだから何もできないはずじゃないですか。
という風に、私たちの視野が狭まるわけです。死んだ人間に何ができる、いや何もできない、みたいな感じに。
しかし、物語のラスト、死んだ探偵が残していた手紙に「私を殺すとしたら、○○だろう」と真犯人の名前が書いてあるわけですよ。そうすると、急に格の高さを感じるわけです。
「死んだ人間には何もできない」と視野を狭めておいて、「犯人を手紙で当てる」という形で予測を一気に上方修正することで、急に「格が高い存在」になったわけです。
ほかにもブルーアーカイブとか、結構いろいろな作品でこのテクニックが使われているのでぜひ見てみてください。






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